表皮効果について〜①電流密度分布の導出〜

表皮効果について深く掘り下げて考える機会があったので,やったことを備忘録にまとめておきたいと思います.全3回の記事になる予定.

まず今回は表皮効果による導体断面の電流密度分布について導出方法をまとめたいと思います.

 

 

表皮効果の概要

電気には直流と交流があります.単三電池とかから得られるのが直流,家庭のコンセントから出てくるのは周波数が50Hzまたは60Hzの交流ですね.

直流と交流の違いの一つに電流分布の違いがあります.電流の流れる導体の断面を切って電流分布を考えると,直流の場合はどの位置でも均一に電流が流れるのですが,交流の場合は中心にはあまり電流が流れず,外側に行くほど電流が多く流れるといった分布になります.

 

この辺の話は色々なサイトや本で解説がされているのですが,実際に計算をして時間変化を理解できるグラフを描いたり,パイプ導体の場合の分布がどうなるかといったところを詳細に説明したものは見当たらなかったので,この記事ではそれらをまとめることを目指したいと思います.

参考にしたサイトをいくつか記載しておきます.

http://www.intex.tokyo/text/skin-effect/skin-effect-01.html

http://www.osssme.com/doc/funto105-no410.html

 

導体断面の電流分布の計算 

モデルとして下記のようなパイプ導体断面(外半径a,内半径b)を考えます.一般化のためにパイプとしていますが,円柱導体の場合はb=0として計算すれば良いです.

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導体断面モデル

このモデルにおいて半径rの位置の電流密度i(r)は下記の微分方程式で記述できます.

 \begin{align} \frac{d^2i(r)}{dr^2}+\frac{1}{r} \frac{di(r)}{dr} = j \omega \mu \sigma i(r) \tag{1} \end{align}

ここで

 ω:角周波数[rad/s]

 μ:透磁率[H/m]

 σ:導電率[S/m]

上記の微分方程式はベッセルの微分方程式としてよく知られており,一般解は下記になります.

 \begin{align} i(r) = CI_0(kr)+DK_0(kr) \tag{2} \end{align}

ここで

  C, D = 定数

  k=\sqrt{j \omega \mu \sigma}

  I_0()= 0階の第1種変形ベッセル関数

  K_0()= 0階の第2種変形ベッセル関数

C, Dを求めるために境界条件が必要です.今回の導体断面モデルの場合,境界条件は以下の2式になります.

 \begin{align} \frac{di(b)}{dr} = 0 \tag{3} \\ i(a)=i_0 \tag{4} \end{align}

ここで,導体外表面の電流密度を i_0としました.

境界条件(3)(4)式を(2)式に適用すると下記の(2-1)(2-2)式が得られます.

※(2-1)式の導出には変形ベッセル関数の微分の知識が必要になるのですが,これについては記事の末尾に補足をつけますので参照ください.

 \begin{align} 0 = CI_1(kb)-DK_1(kb) \tag{2-1} \\ i_0=CI_0(ka)+DK_0(ka) \tag{2-2} \end{align}

ここで

  I_1()= 1階の第1種変形ベッセル関数

  K_1()= 1階の第2種変形ベッセル関数

(2-1)(2-2)式を連立して解くと,C, Dは下記のように求められます.

 \begin{align} C = \frac{K_1(kb)}{I_0(ka)K_1(kb)+I_1(kb)K_0(ka)}i_0 \tag{5} \end{align}

 \begin{align} D = \frac{I_1(kb)}{I_0(ka)K_1(kb)+I_1(kb)K_0(ka)}i_0 \tag{6} \end{align}

続いて,この(5)(6)式を(2)式に代入することでi(r)が求められます.

 \begin{align} i(r) = \frac{K_1(kb)I_0(kr)+I_1(kb)K_0(kr)}{I_0(ka)K_1(kb)+I_1(kb)K_0(ka)}i_0 \tag{7} \end{align}

ただ,この式(7)は i_0を使って書かれており,このままでは数値計算するのに使い勝手が悪いです.というのも i_0は外表面の電流密度ですが,これは通常未知の値です.我々がわかるのは導体に流れる全電流 I(=電流密度を断面で面積分した値)なので,これを使って式(7)を書き換えます.

まずは全電流 Iを求めます.ベッセル関数の積分が少しテクニカルですが,詳細は補足を参照ください.

\begin{align} I &= 2\pi \int_b^a i(r)rdr \\ &= \frac{2\pi a}{k}\frac{I_1(ka)K_1(kb)-I_1(kb)K_1(ka)}{I_0(ka)K_1(kb)+I_1(kb)K_0(ka)}i_0 \tag{8} \end{align}

これより, i_0 Iで表すと

\begin{align} i_0 =\frac{k}{2\pi a}\frac{I_0(ka)K_1(kb)+I_1(kb)K_0(ka)}{I_1(ka)K_1(kb)-I_1(kb)K_1(ka)}I \tag{8'}  \end{align}

(8')式を(7)式に代入するとi(r)は

  \begin{align} i(r) =\frac{k}{2\pi a}\frac{K_1(kb)I_0(kr)+I_1(kb)K_0(kr)}{I_1(ka)K_1(kb)-I_1(kb)K_1(ka)}I \tag{☆} \end{align}

と求められます.これより,導体材料と交流周波数から kの値,導体の寸法からa, bの値を決定し,流れる電流 Iを決めてそれぞれを(☆)式に代入すれば導体断面の電流密度を求めることができます.

次回の記事では,実際に値を代入して電流分布がどうなるかグラフを描画して確認していきます.

 

補足:変形ベッセル関数の各種計算について 

本記事のなかで変形ベッセル関数の計算がいくつか出てきましたので,計算方法を補足します.記事中の計算を行う上で必要になる部分のみを記載しますので,より詳細については別途調べてみてください.

 

(2-1)式の導出について

第1種変形ベッセル関数,第2種変形ベッセル関数の両方に共通して下記の性質があります.nを整数とすると

\begin{align} I_{-n}(x)=I_n(x) \tag{*1-1} \end{align}

\begin{align} K_{-n}(x)=K_n(x) \tag{*1-2} \end{align}

また,微分について以下の公式があります.

\begin{align} \frac{dI_n(x)}{dx}=\frac{1}{2}\Bigl\{ I_{n-1}(x)+I_{n+1}(x)\Bigl\}\tag{*2-1}\end{align}

\begin{align} \frac{dK_n(x)}{dx}=-\frac{1}{2}\Bigl\{ K_{n-1}(x)+K_{n+1}(x) \Bigl\} \tag{*2-2} \end{align}

n=0の場合には(*1-1)(*1-2)式と組み合わせると下記が成り立ちます.

\begin{align} \frac{dI_0(x)}{dx}=\frac{1}{2}\Bigl\{ I_{-1}(x)+I_{1}(x) \Bigl\}=I_{1}(x) \tag{*3-1}\end{align}

\begin{align} \frac{dK_0(x)}{dx}=-\frac{1}{2}\Bigl\{ K_{-1}(x)+K_{1}(x) \Bigl\}=-K_{1}(x) \tag{*3-2}  \end{align}

 

(8)式の導出について

微分について以下の公式があります.

 \begin{align} \frac{d}{dx}\Bigl[x^nI_n(x)\Bigl]=x^nI_{n-1}(x) \tag{*4-1}\end{align}

 \begin{align} \frac{d}{dx}\Bigl[x^nK_n(x)\Bigl]=-x^nK_{n-1}(x) \tag{*4-2}\end{align}

n=1かつx=krとすると

 \begin{align} \frac{d}{d(kr)}\Bigl[krI_1(kr)\Bigl]=krI_{0}(kr) \tag{*5-1}\end{align}

 \begin{align} \frac{d}{d(kr)}\Bigl[krK_1(kr)\Bigl]=-krK_{0}(kr) \tag{*5-2}\end{align} 

両辺に左から \frac{d(kr)}{dr}( =k)をかけると

第1種変形ベッセル関数の場合:

\begin{eqnarray} \frac{d(kr)}{dr}\frac{d}{d(kr)}[krI_1(kr)] &=&\frac{d(kr)}{dr}[krI_{0}(kr)]\\ \frac{d}{dr}[krI_1(kr)]&=&k^2rI_{0}(kr) \\ \frac{1}{k}\frac{d}{dr}[rI_1(kr)]&=&rI_{0}(kr) \tag{*6-1}\end{eqnarray}

第2種変形ベッセル関数の場合:

\begin{eqnarray} \frac{d(kr)}{dr}\frac{d}{d(kr)}[krK_1(kr)] &=&-\frac{d(kr)}{dr}[krK_{0}(kr)]\\ \frac{d}{dr}[krK_1(kr)]&=&-k^2rK_{0}(kr) \\ \frac{1}{k}\frac{d}{dr}[rK_1(kr)]&=&-rK_{0}(kr) \tag{*6-2}\end{eqnarray}

両辺をrで積分して辺を入れ替えると

\begin{align} \int I_0(kr)rdr = \frac{r}{k}I_1(kr) \tag{*7-1}\end{align}

\begin{align} \int K_0(kr)rdr = -\frac{r}{k}K_1(kr) \tag{*7-2}\end{align}