表皮効果について〜③パイプ導体の電流密度分布〜

前回の記事では,円柱導体の電流密度分布についてアニメーションを用いて詳しく掘り下げて考えました.この場合,導体の中心部の振幅は小さい(電流は小さい)のに対して,導体の外側付近の振幅は大きく(電流は大きく)なっており表皮効果を目で見て理解することができました.表皮効果は高周波になるほどより顕著になり,無線通信なんかの領域になると円柱導体では中心部にはほとんど電流は流れないので,中心部をくり抜いたパイプ導体がよく使われています.本記事ではパイプ導体の電流密度分布について記載します.

 

パイプ導体の電流密度分布の時間変化

前回同様,下記の(☆)式に各種変数を代入してアニメーションをプロットします.円柱導体の時はb=0としましたが,今回はパイプなのでb=10 [mm]とします.( k=\sqrt{j \omega \mu \sigma})

  \begin{align} i(r) =\frac{k}{2\pi a}\frac{K_1(kb)I_0(kr)+I_1(kb)K_0(kr)}{I_1(ka)K_1(kb)-I_1(kb)K_1(ka)}I \tag{☆} \end{align}

 a=30 [mm]

 b=10 [mm]

 ω=2 \pi x 60 [rad/s]

 μ=1.257e-6 [H/m]

 σ=3.546e-7 [S/m]

 I=1 [A]

これを実行すると下記のアニメーションが得られます.

f:id:kedarumasan:20200725142310g:plain

パイプ導体の電流密度分布

これを見ると,ちょうど前回の円柱導体の電流密度分布の中心部をくり抜いたような分布になっているのがわかります.中心部を削っても同じような分布が得られるなら導体の軽量化・低コスト化ができて良いですね.

 

パイプの肉厚を変えると分布はどうなるか

と,ここで一つ疑問が.

上のアニメーションはとりあえずb=10 [mm]としましたが,bをもっと大きくしたら,すなわちパイプの肉厚をもっと減らしていったら分布はどうなるのでしょう.というのもどうせ中心部をくり抜くなら,中途半端にくり抜くのではなくギリギリまで削りたいですよね.そこでb=0, 10, 20, 25 [mm]と変化させた場合の電流密度分布(振幅)を計算して下記に並べてみました.

f:id:kedarumasan:20200725233940j:plain

上からb=0(穴無), 10, 20, 25 [mm]の時の電流密度分布

b=10 [mm]のときは先ほどアニメーションでみたのと同じなのでちょうどb=0 [mm]の中心部をくり抜いたような結果になっています.

b=20 [mm]のときはというと少し分布が変わってきます.外表面部分(r=±30 [mm]付近)はb=0 [mm]のときと同等で700 [A/mm ^2]程度ですが,少し内側のr=±20 [mm]でも600 [A/mm ^2]程度あり,これはb=0 [mm]では400 [A/mm ^2]程度なのに比べると高くなっています.振幅の変動が600-700の範囲なのでだいぶフラットになり,表皮効果をかなり抑えられています.言い換えると,直流の分布に近づいているとも言えますね.

続いてさらに肉厚を薄くしたb=25 [mm]の場合ですが,電流の流れる全範囲(r=±25~30 [mm])で1200 [A/mm ^2]程度と値が跳ね上がりました.変動範囲は狭いので直流に近い分布と言えますが,電流密度が高いということはそれだけ熱も発生することを意味するので実用可能かどうかは判断が難しいところです.

 

以上まとめると,パイプ形状にする場合ある一定の肉厚までなら円柱形状(b=0 [mm])のときと同等(b=10 [mm])あるいは電流密度の向上を図ること(b=20 [mm])ができます.ただ,一定の肉厚を超えて,あまりにくり抜きを大きくしすぎると(例えばb=25 [mm]),電流が流れる部分が少なくなりすぎて熱を持ってしまうことになります.一番効率の良くなるちょうど良いパイプ形状があるということですね.なお,今回は商用周波数の60 [Hz]で計算しているのでこのような結果ですが,周波数が変われば結果も大きく変化するので注意が必要になります.

 

全3回にわたって表皮効果について記事を書きました.アニメーションで時間変化を掴むとともに,少し発展してパイプ形状の電流密度分布についてもグラフを用いて結果を解説しました.どなたかの理解の助けになれば幸いです.