表皮効果について〜②電流密度分布の時間変化を可視化〜
前回の記事で電流密度分布が下記の(☆)式になることを導出しました.()
この記事では(☆)式を元にグラフおよびアニメーションを描画し,電流密度分布の時間変化を理解しやすいように可視化します.
ちなみに以前の記事で「技術計算にはpythonではなくOctaveを使います!」と高らかに宣言していたのですが,Mac版Octaveではグラフの保存がうまくできなかった(会社のWindows版Octaveではちゃんと保存できるのですが...)ので今回のグラフは全てpythonで頑張って作りました.
電流密度分布の振幅のグラフを描画
グラフを描画するにあたって今回は周波数60Hzで直径60mmのアルミ導体に1Aの電流を流した場合を考えます.したがって,各変数は下記の値となります.
a=30 [mm]
b=0 [mm]
ω=2 x 60 [rad/s]
μ=1.257e-6 [H/m]
σ=3.546e-7 [S/m]
I=1 [A]
これらを(☆)式に代入するとi(r)は複素数となりますが,このi(r)の絶対値(ベクトルの大きさ)をとると電流密度の振幅は下記のようなグラフになります.
これは表皮効果の説明でよく出てくる図です.電流密度の振幅は円の外側では800A/mmですが,内側に向かうに従って指数関数的に減少し,中心では160A/mm程度しかありません.
...と,ここまでは色々なサイトでも説明されているのですが,本記事ではもう少し掘り下げて考えてみます.というのもここまで電流密度の「振幅」という言葉をあえて使ってきましたが,交流の場合は周波数60Hzで電流が周期的に時間変化しており,「振幅」というのはあくまでこの時間変化の最大値を取っているにすぎません.そこで上記のグラフのように最大値だけを見るのではなく,電流密度の時間変化を可視化したいと思います.ただ,時間変化は静止画では表わせないので,アニメーションを使って可視化します.
時間変化がどうなるかの予想
私がはじめになんとなく考えていたことは,振幅(最大値)のグラフが上記の分布であれば,時間変化の様子は単純にこれをsin波にあてはめて変化させた下記のようなグラフになるのでは?ということでした.しかし,これは間違いですので,同じことを考えていた方はぜひ最後まで読んでくださいね.
電流密度の時間変化
もう一度(☆)式に戻ります.先ほどはi(r)の絶対値をとりましたが,今度はi(r)の虚数部をとります.位相を0~360°まで変化させた結果のアニメーションを下記に示します.
これを見るとわかるように,半径rのどの位置でもきちんと点線で示した振幅を守って60Hzで振動しているのがわかります.しかしながら,位相に注目すると中心に向かうほど遅れが生じています.私がはじめに予想したアニメーションはこの位相遅れを考慮していない点が間違っていたわけですね.ただ,このような時間変化をきちんと理解するには実際に自分で計算してアニメーションまで作らないとなかなかわからないと思うので,本記事がその助けになれれば幸いです.
ここからは少し余談です.上記の通り電流分布を見ると中心に向かうほど位相遅れが生じていることがわかりましたが,位相遅れがあるということは見方を変えると位置によって電流の向きが反転する可能性があることを示します.例えば位相が170°のときの電流分布は下記の通りですが,半径-10~+10mmの範囲では電流密度は約+200A/mmでプラスの値,半径±30mm付近では約-400A/mmでマイナスの値をとっています.電流密度の正負の値は電流の流れる方向を表すので,中心付近(-10~+10mm)と外側(±30mm)では電流の向きが逆転していることがわかります.
これを図解するとこんな感じです.↓
電流をミクロに見るとこのような分布になっているわけですが,実際に電流を測定する際はマクロにしか見ることができません.というのも電流計で測る電流はこれらの電流密度を積分した値を測定値としているわけですね.よく直流と交流の違いで交流は電流0点があるから遮断がしやすい(逆に直流は0点がないため遮断しにくい)ということが言われていますが,電流分布を見ると交流でも導体の断面の電流が完全に0になる瞬間というのは結局存在せず,あくまで電流密度の積分値が0になるときを電流0点と呼んでいることが伺えます.
次回は導体がパイプの場合の電流密度分布について投稿予定です.